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- ラジオテレメトリー調査 -
ラジオテレメトリーを用いた猛禽類の行動圏解析システム

 野生動物の行動圏や移動パターンの研究に、1960年代から電波発信器を用いたラジオテレメトリー法が適用されるようになった。この方法は当初観察の困難な夜行性哺乳類の行動研究に適用されていた。しかし、開発初期の発信器は大きく重かったため、この装着に耐えうる動物は大型哺乳類に限定されていた。
 1980年代に入り、小型軽量化した発信器が開発されたことにより、ラジオテレメトリー法の小型哺乳類や鳥類へ適用が可能となった。そして、1990年代には昆虫に装着できるほどの小型軽量化した発信器が開発されるようになった。
 広大な行動圏を持つ猛禽類へのラジオテレメトリー法の適用が始まったのは1970年代からで、ヨーロッパや北米でフクロウ類、オオタカ、そしてイヌワシなどが対象とされた。そして多くの論文が発表され、ラジオテレメトリー法の適用は猛禽類の生態の解明に大きく貢献した。このように、近年北米やヨーロッパを中心に猛禽類への適用は標準的な研究手段となった。しかし、単に猛禽類に適用すると、測定された発信器がつけられた個体の位置は、数百mから数kmの測定誤差を持ち、これを小さくするための適切な追跡法が求められるようになった。
 一方、日本でのラジオテレメトリー法の猛禽類への適用は1990年代から始まり、北米やヨーロッパに比べて遅れていた。しかし、1999年平野に生息するオオタカの位置をわずか数mの測定誤差で特定する方法が確立され、精度の高い位置点が収集できるようになった(Kudo et al. 2001)。これらのデータを利用して、日本でもGIS(地理情報システム)を用いた猛禽類の生態研究が行われ、現在主流になっている。

 発信器には様々なタイプのものがあり、現在主に利用されているものは地上波(VHF等)を利用するもの、アルゴス(Argos)システムを利用するもの、GPSシステムを利用するものである。
 アルゴスシステムは大規模に移動する種に有効で、鳥類では「渡りルート」の解明などに利用されている。しかし、得られた位置点は測定誤差が大きく、行動圏や環境選択性の解析には向いていない。GPSシステムを利用するものは、データロガーで位置情報を保存するものが海鳥の調査で実用化されている。これは対象動物を再捕獲する必要があり、猛禽類の場合困難である。また、これらの発信器は人工衛星を利用しており、主に森林の林冠下を移動するような動物の位置の測定は困難である。そのため、これまで猛禽類の行動圏調査では、地上波の発信器を利用することが主流であった。
 しかし現在、GPSで特定した位置情報をアルゴスシステムや地上波で送信する発信器の開発が行われ、バッテリーもソーラー発電を利用したもの等が普及してきている。 参照)自然環境保護無線協会
 これらのシステムが実用化されれば、位置点の精度が向上し、位置測定作業の無人化が可能となり、行動圏調査の効率化が進むものと期待されている。

発信器(Tag)
Biotrack社(英)製 TW-3
装着動物によってバッテリー寿命、重量等の仕様変更が可能。また、装着動物の姿勢により発信間隔が変化するセンサーの搭載も可能。
(上:クマタカ用、下:オオタカ用)
八木アンテナ(Yagi Antenna)
AF Antronics社(米)製
F114-146-3FB
鋭度指向性折り畳みアンテナアルミ合金製で、高強度フィールドでのハードな使用に対応。
受信機(Receiver)
八重洲無線株式会社製 FT-290mkⅡ(改)
アッティネーターを組み込み受信感度を調整可能としている。
デュプレックス機能により、11chメモリー
内部電源:13.5V/10.8V 本体重量:約1.2kg(電池含まず)
GPS受信器(GPS Receiver)
GARMIN社(米)製
GPSMAP 60CSx

< 調査の流れ >

捕獲
野生動物の捕獲は環境省の捕獲許可証が必要で、特に希少猛禽類の捕獲許可証の申請から発行までは長い審議時間を要する(1ヶ月~)。
また、これら捕獲作業には多くの知識と経験が必要である。
発信器の装着
バックパック方式で発信器を装着。
テフロン製のハーネスは経年劣化し、自然に脱落する。
発信器を装着した個体
発信器装着、体重測定(必要に応じて血液採取)が行われた後に放鳥。発信器とハーネスを合わせた重量は装着個体の体重に占める割合は3%以下とする必要がある。
発信器の装着
発信器からの電波を高指向性アンテナで受信、位置を特定する。フィールドでのラジオテレメトリー調査は、基礎知識と実地訓練が必要となる。発信器の性能の向上により、将来は無人化が可能となろう。

・ 捕獲から放鳥までの作業手順
 1. 捕獲
 2. 捕獲個体の形態(体重・翼長・尾長・ふ蹠長等)の測定
 3. バックパック方式による発信器装着
 4. 血液採取(個体群の遺伝子構成を解明する)
 5. 環境省リング装着
 6. 放鳥
 ※4. 5.は調査内容や環境省の許可証の内容によって省くことがある。
 
・ 追跡
 1. 発信器からの電波を受信機によって受信し、発信器装着個体の位置を正確に特定するには、通常1000 時間以上の
   訓練期間が必要。
 2. 位置点を地形図にプロットし、その位置の植生、地形、気象および特筆事項等を調査票にまとめる。
 3. 行動圏を効率よく推定するためには、空間的自己相関のない位置点を収集する必要がある。このためには位置点を収
   集する時間間隔を統計的手法で決定しなければならない。また、空間的自己相関の有無を検定するための事前サンプ
   リングが必要である。オオタカでは位置点の収集間隔が4時間以上でお互いの位置点の相関がなくなり、有意に独立
   となった。この間隔はクマタカでもほぼ同様である。つまり、オオタカやクマタカの繁殖期の行動圏を効率よく推定
   するには、4時間以上の間隔を空けて1日に2~4の位置点を繁殖期にわたって系統的に収集する必要がある。

< GISによる行動圏解析 >

・ 行動圏の推定
 a.カーネル法(Kernel method)
  フィックスト(固定)カーネル法とアダプティブ(変動)カーネル法がある。
  固定カーネル法は現在、主流に利用されている行動圏推定法である。
 b.最外郭法(Minimum convex polygon)
  単純でわかりやすい推定法であるが、行動圏内に多くの未利用地を含む。
 c.グリッド法(Grid method)
  モザイク状の景観に生息する動物の環境選択性の解明に有効。
 d.調和平均法(Harmonic Mean method)
  計算式に欠点があり、その使用には十分な注意が必要。
 e.2変量正規楕円法(Bivariate normal ellipse)
  得られた位置点が2変量正規分布している必要があるが、このような行動特性をもつ動物は稀。
 f.クラスター法(Cluster method)
  コアエリアの推定に有利。
 g.バッファ法(Buffer method)
  バッファ値で行動圏面積が大きく変動する。バッッファ値の決定には、生態学的根拠が必要。
 
 現在主に利用されている推定法はa.またはb.である。行動圏推定に必要な位置点数は行動圏推定法ごとに異なる。
 各行動圏推定法は研究目的に応じて選択する必要がある。また、今後より適した推定法が考案されると考えらる。

MCP
例1. 100%最外郭法(100% Minimum convex polygon)
カーネル
例2. 固定カーネル法(Fixed Kernel method)

・デジタルマップ
 平面化した空間座標の上に、道路、川、山などの地図要素を書き加えたもので、デジタルマップはこれら地図要素に命名し、属性をつけデータベース化したものである。こうすることによって地図は作成方法から表現に至る(縮尺、地図要素の選択、表示)自由度が拡大し、すべてのコンピュータ上でコントロールすることが可能となる。

IKONOS
衛星画像(サンプルはIKONOS画像)
航空写真
航空写真
地形図
地形図(国土地理院1:25000)
DEMデータ
標高データ(DEM)

・GISによる行動圏の構造分析
 行動圏内の植生区分や傾斜分布、土地利用形態等の環境区分は、衛星画像や植生図・3D地形図等によって表現され、各レイヤ-との合成によって数値デ-タとして扱うことが可能となる。また、行動圏の周辺域や他の地域との比較等も可能となり、保全区域の設定等に寄与する。

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