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北海道におけるチュウヒCircus spilonotusの生態
Studies on Eastern Marsh Harrier in Hokkaido

※ データは2010年までのものです。

♦形態
 チュウヒ属Circus (Kaup. 1847) は15種からなる中型の草原性のタカ類で、翼長は比較的長く、尾羽脚・指は共に長い。ゆっくりとした羽ばたきで草原を低空飛行し、地上や地上近くに潜む小型哺乳類や小鳥、爬虫類などを急襲し捕獲すると
いった狩りに適応したグル-プである。
 チュウヒはチュウヒ属の中では大型で、見かけ上オオタカやノスリほどであるが体重は♂Ad.400-550g ♀Ad.620-790gで、比較的軽量である。なお、北海道には冬鳥または旅鳥として飛来するハイイロチュウヒは、やや小型で低草地や畑などにみられ、チュウヒより高速で飛行し、主に小鳥を獲物としている。
♦社会的背景
 チュウヒは繁殖環境である高茎草地が各種開発によって減少したに伴い生息数が減少。
 環境指標種または貴重種として保護活動が盛んに行われるようになった。しかし、大型河川の下流域に広がるヨシ原などの自然植生は河川改修工事等によって失われ、保全等の施策が十分機能しているとはいえない。(絶滅危惧ⅠB類:EN レッドリスト 環境省. 2006)。
♦分布
 チュウヒは英名ではEastern Marsh Harrierで東部の沼チュウヒとでもいうべき名前を持っており、中央アジアから
ヨ-ロッパ、北アフリカに分布するヨ-ロッパチュウヒCircus aeruginosus Western Marsh Harrierとは近縁種である。
 チュウヒC.s.spilonotusの繁殖分布はバイカル湖の東部から沿海州、サハリンおよび北海道、本州である。本州では留鳥と
されるが繁殖数は少ない。北海道では夏鳥で、4月上旬から4月下旬にかけて渡来し、11月下旬から12月上旬まで
留まるものもある。しかし、越冬記録はない。本州北部の青森県や秋田県では越冬個体がみられるので、津軽海峡が本種の越冬境界といえる。

< 営巣木の標高 >

営巣木の標高

< 北海道のチュウヒの繁殖分布 >

繁殖分布

 北海道におけるチュウヒの繁殖地はこれまで65地点(1972年-2010年)を確認した。
 サロベツ原野、勇払原野、釧路湿原などの規模の大きな湿原の縁辺で繁殖しているほか、石狩川、十勝川、千歳川などの下流域に広がるヨシ原やササ原等。また、太平洋やオホ-ツク海の沿岸部にみられる湖沼群の縁辺に広がるヨシ原等でも少数の繁殖を確認している。さらに、十勝川の中流域(内陸部)でも複数の繁殖を確認していたが、1989年を最後に繁殖記録が途絶えた。
 殆どの繁殖地では周辺部から土地改良化(明渠排水溝等による乾燥化)が進み、湿性草原は消失していった。北海道におけるこの耕地化事業は明治後期からの記録があるが、本格的なものとなったのは戦後(昭和20年以降)からである。また、釧路湿原では湿原の縁辺に酪農事業が展開され、湿原に土砂の流入や水質の富栄養価が進んだため、ハンノキ林の占める割合が高くなり、ヨシ原が消失し続けている。同湿原は1980年にラムサ-ル条約に登録され、1987年には国立公園にも指定された。また、釧路湿原自然再生プロジェクトがスタ-トしている。しかし、このプロジェクトはパイオニア事業としての位置づけであるため、その成果がいつ達成されるのか不明である。
 チュウヒの繁殖ペア数は1970年代から2010年までの約40年間に半数以下となったのはほぼ間違いがない。今後、個体群は加速度的に減少することが予想される。

石狩平野
繁殖環境
十勝平野
繁殖環境

♦チュウヒの繁殖生態
 春の渡来期は各地で若干異なるようであるが、勇払原野や石狩川下流域では4月上旬に少数が飛来しはじめるが、サロベツ原野や釧路湿原では4月下旬になる。繁殖の開始は他のタカ類同様♂Ad.が営巣地に戻り、巣予定地周辺の監視体制となることから始まる。これは行動圏が巣を中心とした繁殖体制に移行した事を示すもので、4月下旬~5月上旬にかけて観察される。同時期にペアのディスプレ-フライトや造巣行動も見られるようになる。
 営巣地に戻った♀Ad.は必ずしも前年の番(ペア)相手ではないようだ。
 チュウヒの特殊な繁殖生態として、一夫多妻制がある。しかし、北海道においてはそのような事例は極めて少なく、1982年サロベツ原野で繁殖した1♂Ad.が2ヶ所の巣に餌を運んでいた例と、1985年十勝内陸の音更町の湿原で、同様な事例が
あっただけである。
 一夫多妻制にはいくつかのタイプがあるがあり、チュウヒにおいては資源防衛型と推定される。この資源防衛型は♀Ad.にとって必要な資源(餌動物)を♂Ad.が防衛し、その対価として資源に集まってきた♀Ad.と繁殖(交尾)をする。つまり1♂Ad.の縄張り内で複数の♀Ad.の需要を満たす場合にのみ成立し、この縄張りが維持出来ない場合には成立しない。
 つまり、1♂Ad.が縄張りを維持出来る面積的な制約が生じるため、ある一定以上に広がりを持つことはできない(1995年石狩川における行動圏:平均11.7km2 n=4)。したがって、資源量が豊富(餌動物の高密度)な地域でなければ一夫多妻制は成立しないことになる。チュウヒの繁殖戦略上このような理論が成り立つとすれば、北海道内で繁殖するものの一夫多妻の例が極めて少ないのは、縄張り内の資源量(密度)が少ないことによる結果ではないかと推定される。

4卵
クラッチサイズ 4卵の例
5卵
クラッチサイズ 5卵の例

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