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北海道におけるオオタカAccipiter gentilisの生態 Studies on Northern Goshawk in Hokkaido |
※ データは2010年までのものです。 |
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< オオタカの形態 >
ハイタカ属Accipiter(Brion. 1760)は小型から中型の森林性のタカ類で、翼長は比較的短く尾羽は長い。脚・指は共に細長く、早い羽ばたきと巧みな方向転換によって樹林内を素早く飛行し、小鳥等を捕食するのに適応したグル-プである。特に種ハイタカA.nisusはその典型である。
オオタカはハイタカ属の中では最大で、体重は♂Ad.590-810g ♀Ad.900-1210gとなり、ハイタカの3.1~3.9倍に達する(Fumiko ABE. 2007)。したがって、ハイタカほど軽敏な飛行は出来ないが、林内を巧みに飛行し狩りを行う。農耕地や水際などの開けた環境でも狩りを行い、強力な脚でキジやカモ類等の鳥やノウサギ等も捕獲する。
< オオタカの世界分布と群系分布 >
北半球の寒帯から温帯の森林帯に留鳥として広く生息するが、シベリア北部などの高緯度地域で繁殖するものは冬季には温帯へ渡る。
オオタカは広域に分布する鳥で、8亜種(Del Hoyo, Elliott & Sargatal. 1994)または9亜種(Brown, Amadon. 1968)に分類されている。
北海道に生息するものは大陸産のA.g.schvedowi(亜種:チョウセンオオタカ)とされていたが、日本鳥類目録(第6版. 2000)によれば本州以南に産するA.g.fujiyamae(亜種:オオタカ)に分類が変更されている。近年DNAよる分析が進められているが、北海道産オオタカの亜種レベルの判定については結論が出ていない。なお、シベリア北東部からカムチャツカ半島に分布するA.g.albidus(亜種:シロオオタカ)は亜種の中では最大で、北海道と青森県に記録がある。本来は希な冬鳥として記録されるが、1999年5中旬から6月下旬に石狩市生振で♀Ad.(淡色型)が記録されている。
オオタカの生息分布を世界の植生区分から見ると、北方針葉樹林(タイガ)、冷温帯夏緑広葉樹林、暖温帯常緑広葉樹林、冬雨地帯の半緑硬葉樹林の一部で繁殖し、冬季は温帯草原や寒冷な冬をもつ半砂漠地帯にまで移動するものもいる。つまり、繁殖期を中心として温帯以北の森林帯に生息するものの、冬季は草原などの開けた環境で越冬するものもあり、必ずしも森林だけに依存している訳ではない。また、熱帯林、亜熱帯林には生息していない。
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< 営巣木の標高 > ![]() |
< 北海道のオオタカの繁殖分布(1979年~2009年) > ![]() |
北海道におけるオオタカの繁殖地はこれまで367地点(1979-2009年)を確認した。
平野部の農耕地帯や樹林地、低山帯の森林で多く確認されている。しかし、樹林地のない市街地や高山帯での記録はない。また、北海道の属島(奥尻・礼文・利尻等)での繁殖記録もない。
巣位置の標高は20~99mの平野部の記録が最も多く、次いで100~199mの平野部から低山帯への移行帯、0~19mの低平部の順となっている。つまり、標高200m未満での数が全体の80%以上となっている。これは相対的に低平部の面積が広いといった北海道の地形的な特徴を反映しているもので、調査精度(巣へのアクセス難易度)も影響していると考えられる。
特に標高200m以上の山林においては調査精度を維持するのが困難で平野部と単純に比較する事は出来ないが、例えば日高地方の山林における巣間距離(n=8)は石狩地方(n=12)や十勝地方(n=9)と比較し、mean 2.7km±SD 0.5で有意差はなかった。
今後、山地林で繁殖するオオタカの記録が追加されていくことが予想される。なお、これまで確認されている最高標高は十勝地方札内川上流域の針広混交林750mで、上川地方米飯山山麓のトドマツ植林730mでも繁殖を確認した。
< 巣の計測:トドマツ架巣例 > ![]() |
< 調査地 > ![]() |
< オオタカの営巣木の計測値と巣のサイズ (n=51) >
樹高(m) | 胸高直径(cm) | 巣高(m) | 巣長径(cm) | 巣短径(cm) | 上面積(cm2) | 巣深さ(cm) | |
Range | 11.0-31.0 | 25.8-107.0 | 3.5-21.0 | 55-115 | 55-90 | 3062-8203 | 25-70 |
±SD | 3.9 | 18.5 | 3.3 | 11.4 | 8.6 | 1188.5 | 10.6 |
Mean | 21.6 | 47.9 | 11.3 | 88.7 | 79.5 | 5596.6 | 42.2 |
< 地域別営巣樹種の割合 >
・造巣期(青葉の搬入を含む)
枝を積み上げて作るタカ類の巣は、造巣期から雛が巣立つまでの期間巣材を搬入する。特に産座には青葉と呼ばれる葉の付いた枝や樹皮を搬入する。この青葉や樹皮等は卵や雛を保護する働きがあると考えられる。したがって、これも含め造巣として扱う事が出来る。また、巣材搬入がディスプレ-として行われる場合もある。つまり、造巣は個体が巣への執着性が強い期間に行われる。
通常、雛の巣立つ7月中旬から翌年の3月上旬まで造巣行動はみられない。
3月下旬には番(ペア)が形成され、この頃から頻繁に巣材の搬入がみられる。
巣材の搬入は雌雄共に行い、搬入回数は荒天日を除き1日に15~40回である。このような頻繁な巣材搬入は4月中旬から5月上旬の第1卵の産卵日まで続く。巣は直径80~90cmのものが多く、巣の上面積は約5,600cm2となっている。また、巣の厚さは25~70cmでバラツキがあるが、これは巣の上面積を確保するためで、枝張りとの関係でほぼ決定される。したがって、カラマツやトドマツ等の針葉樹では、枝張りが輪生状となっているため比較的薄く、ミズナラやハンノキ等の広葉樹では厚くなる傾向がある。このような巣の形状の違いは風に対する耐久性に差が生じ、薄いものほど崩壊しやすい。ただし、簡便に巣の上面積を確保するのには有利である。巣の内径(産座)は直径が約30cmの円形で、小枝や樹皮・青葉等で構成されている。この大きさは抱卵時の♀Ad.の腹部の接触面と一致する。なお、産座は孵化後、雛の成長にしたがって形状が崩れ、新しく搬入された巣材に埋もれる。
・営巣樹種とその割合
各地域によって営巣樹種とその割合が異なり、十勝地方平野部ではカラマツが69.2%で最も多く、次いでドイツトウヒ11.1%、カシワ7.0%の順となっている。日高地方の低山帯ではトドマツが75.1%、ミズナラ10.0%、カラマツ6.2%である。また、石狩地方平野部ではハンノキ34.1%、カラマツ27.2%、ドイツトウヒ16.2%である。更に留萌地方の山林ではトドマツが89.2%で大半を占め、シナノキ5.2%、カツラ3.3%となっている。上川地方の丘陵地ではカラマツが38.2%、トドマツ21.0%、カシワ14.4%、ヨ-ロッパアカマツ10.1%の順であった。全体としてはカラマツ、ドイツトウヒ、トドマツといった針葉樹が多く、いずれも高木層の優占種である。特に平野部の防風林では樹齢が20年生以上の針葉樹に多くみられたが、石狩地方では広葉樹にも多く架巣している。なお、渡島地方ではスギ植林に2巣確認されている。
![]() 繁殖環境:石狩平野 |
![]() 繁殖環境:十勝平野 | |
![]() 繁殖環境:十勝・平野部に残る自然林(カシワ) |
![]() 繁殖環境:留萌・山地林 |
< オオタカの繁殖ステージ >
< 卵のサイズ >![]() |
![]() クラッチサイズ 3卵の例 ![]() クラッチサイズ 4卵の例 |
・オオタカの繁殖生態
電波発信器を装着した個体(n=72)の内、♂Ad.の70~75%が繁殖地とその周辺に留まるのに対し、♀Ad.および若鳥の94%以上が繁殖地から150km以上離れる。北海道から本州以南に渡る割合は正確に把握できていないが、毎年9月中旬~11月下旬に北海道南端の白神岬から津軽海峡を南下する。この渡りの総数は350羽以上と推定される。ただし、北海道より高緯度地方で繁殖する個体が含まれている可能性が高い。
繁殖の開始は♂Ad.が営巣地に戻り、巣及び巣周辺の監視体制となる事から始まる。これは行動圏が巣を中心とした繁殖体制に移行した事を示すもので、平野部では2月下旬~3月中旬にかけて観察され、山地では2~3週間遅れる傾向がある。
♀Ad.は3月下旬~4月上旬に営巣地で観察されるようになり、ディスプレ-フライトや造巣行動が見られる。
営巣地に戻った♀Ad.は必ずしも前年の番(ペア)相手ではなく63%が別個体であった。また、♂Ad.においても21%が別個体に置き換わっている。更に♂Ad. ♀Ad.共に入れ替わったのは9%であった。これらはオオタカの繁殖が必ずしも安定的な番(ペア)と営巣地を求めていない事を示唆している。特に♀Ad.では顕著である。繁殖戦略が個体の組み替えによって遺伝的な多様性を持つ点では合理性があるが、繁殖成功率においては不安定な要素を含んでいる。
・交尾期
3月下旬から4月上旬にかけ番(ペア)が形成され、ディスプレ-や巣材搬入が行われる。
番形成時にはフィ-ディングディスプレ-(♂Ad.が♀Ad.に餌を渡す誇示行動)が盛んに行われ、その直後に交尾が観察される事が多い。天候が安定していれば、4月中旬の産卵まで交尾回数は増加し、1日に3~5回観察される。交尾の位置は巣から約100m未満の水平に延びた樹枝上で行われる事が多く、クマタカやハチクマのように巣上で交尾を行う事はない。
・産卵期
北海道におけるオオタカの産卵は4月中旬から5月上旬にかけてであり、最も早い産卵は4月18日で2002年の十勝地方平野部で確認した。通常は4月下旬に第1卵が産卵される場合が多く、最終卵は5月上旬となる。産卵間隔は2.9~3.4日(70~82時間)で第3卵まで産むとすると6日間ほどかかる事になる。
・卵
卵は白色無斑で、卵殻の内側は薄い青色であるのが特徴である。孵化後に巣の下で割れた卵殻が回収されることがあるが、この卵殻内側の色彩でオオタカであることが判定出来る。
大きさは長径55.1±0.82mm(n=69)、短径43.3±0.68mm(n=69)、重量52.1±2.47g(n=60)であった。
これは、ニワトリの卵(Sサイズ)とほぼ同大であった。卵型も鋭端部がニワトリのものと比較し、僅かに丸い傾向があるもののよく似ている。
1腹卵数(クラッチサイズ)は2~4卵で、平均値は3.11卵(n=57)である。この1腹卵数を詳細にみると、平地林で繁殖するものが平均値3.35卵(n=51)に対し山地林では2.21卵(n=23)で、明らかに山地林で繁殖するものの1腹卵数は少ない。
・抱卵日数と孵化期
抱卵日数は第1卵が最も長く38~42日間で、第2卵は35~38日間、第3卵は34~36日間となり、第2卵以降は順次短くなる傾向にある。これは親鳥による抱卵が、第1卵の産卵時には非常に短く、ほぼ1日中抱卵するようになるのは第2卵以降となるからである。従って、産卵間隔が3日程度であるのに孵化はほぼ1日毎となる。これは孵化の時期を短縮し、雛の成長に大きな差ができないようにするためと考えられる(餌の供給量の少ない場合、雛同士が激しく闘争する。雛の日齢に差があると若齢雛は給餌を受けられないばかりか兄弟に殺されてしまう事がある)。したがって孵化時期の短縮は若齢雛の保護に有効である。ただし、餌の不足はしばしば発生し、若齢雛の死亡率は21.5%で比較的高い。
孵化の時期は通常、平地林においては5月下旬から6月中旬にかけてであるが、日高地方のトドマツ林(1997年、標高550m)で6月下旬に孵化し、8月上旬に2羽の雛が巣立った記録もある。
![]() 食痕(ヤマゲラ) |
![]() 食痕(キジバト) |
< オオタカの巣に搬入された餌リストと搬入数 >
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< オオタカの巣に搬入された餌の割合 >
![]() 餌の解析 |
![]() 分解したペリット |
餌の搬入は孵化直前(卵殻内での嘴打が始まる頃)から見られ、ハンティングから戻った♂Ad.が、抱卵中の♀Ad.に渡す。餌を受け取った♀Ad.は抱卵を中断し、餌の解体場所へ移りそこで摂食する。
巣への餌の搬入は巣立ち後の巣外育雛期間の初期(通常巣立ち後2週間程度)まで継続される。
巣に搬入された餌の80.4%は鳥類で哺乳類が10.6%、爬虫類(カナヘビ及びヘビ類)は2%であった。
最も多く記録されたのはスズメ大の鳥で、次いでアカハラ大の鳥そしてシメ大の鳥であった。種レベルで多く記録されたのはムクドリ・シメ・ドバトの順であった。
哺乳類ではシマリスが最も多く、ネズミ類、エゾリス、エゾモモンガ等が記録された。最も大型のものはユキウサギの成獣で、石狩地方の屋敷林に営巣(2001年)したものと、十勝地方の防風林で営巣(1999年)したものとで記録した。このような大型の餌は2~3に分割され搬入された。
各地域で餌の割合は異なり、大別すると平地から丘陵地の林(上川・石狩・十勝)で繁殖するものは、鳥類の占める割合がより高く、全体の95%以上に達している。一方、山地林(留萌・日高)ではリス類やネズミ類等の哺乳類の割合が20%以上を占めている。この餌に占める哺乳類の割合は、ラジオトラッキングとGISによる行動圏(home range)解析から、森林率が46%を越えると顕著になることが分かってきた。なお、森林率が79%に達している巣(Rumoi 2005)での哺乳類の割合は32.5%(重量換算:39.8%)であった。ただし、オオタカの餌の60%以上が鳥類に依存している事には変わらない。
![]() 抱卵期:♂Ad.巣材搬入 |
![]() 抱卵期:♀Ad.抱卵 |
![]() 巣内育雛期:♀Ad.餌搬入 |
![]() 巣内育雛期:♀Ad.餌要求 |
![]() 巣内育雛期:♂Ad.(左)餌搬入 |
![]() 巣内育雛期:♂Ad.餌(ハイタカ巣内雛)搬入 |
・繁殖期における雌雄(♂Ad.♀Ad.)の行動様式
♂Ad.の役割は縄張り(Territory)の確保から始まり、番(ペア)形成、巣内育雛期、巣外育雛期そして幼鳥の分散に至る全ての課程において♀Ad.や雛に安定的な餌の供給を行わなければならないという点である。これは多くの猛禽類では普遍的な♂Ad.のポジションでもあるが、オオタカの場合その餌動物が主に鳥類や哺乳類である点であり、狩りの難易度が高い。つまり、ハンタ-としての高い能力が要求されることになる。さらに餌資源を巡りライバル(他の♂Ad.)の排除や番の維持、巣作りに掛ける時間など、餌の確保とそれ以外に係わる時間的または空間的なポテンシャルとはトレ-ドオフの関係となり、繁殖体制に影響を与える。
♀Ad.は産卵から巣立ちまで、卵の保護や雛の養育が主体であり、営巣期間中の多くの時間はこれに費やされる。つまり、抱卵期における♂Ad.と♀Ad.の抱卵時間の割合では♀Adが92%以上、巣内育雛期における雛への給餌回数では♀Ad.が94%以上である。また、♀Ad.は雛の発育が進み成羽が生え始める頃には給餌量が増加するため、♀Ad.も狩りに参加する。したがって♀Ad.が巣を離れる時間が次第に多くなり、雛の巣立ちまでその傾向は継続する。ただし、♀Ad.の狩りの67%以上は餌を巣に持ち帰る事はなく、自身が摂食していると考えられる。これらの♀Ad.の行動パタ-ンの変化は行動圏の拡大にも繋がり、最終的には♂Ad.の行動圏を上回る広さになる。
石狩地方の南幌で繁殖した2003-IS-23♀Ad.は巣立外育雛期となった7月19日には繁殖地を離れ、13日後の8月1日には約110km離れた十勝地方の新得まで移動したのをはじめ、留萌地方の幌糠で繁殖した2004-RM-7♀Ad.は巣立外育雛期となった7月24日には繁殖地を離れ、10日後の8月3日には約45km離れた空知地方の赤平まで移動した。♀Ad.のこのような行動についてはまだ、追跡事例が少なく明確にする事は出来ないが、少なくとも多くの♀Ad.は巣外育雛期となった時点で営巣地から5km以上離れ、育雛には直接係わらなくなる事が分かった。つまり、巣外育雛期間においては♂Ad.が単独で幼鳥を養育する事になり、この期間は少なくとも40日間以上継続される。
♀Ad.の行動圏は基点を失うため成立せず、番(ペア)行動もなくなる事から分散期として捉えられる。以上のように♀Ad.の行動は繁殖における巣を中心とした、卵の保護と雛の養育(巣内育雛期)に限定されており、北海道においてはハイタカやクマタカ等の他の留鳥性の高いタカ類とは異なった繁殖生態といえる。また、本州以南のオオタカの繁殖生態とも異なるようである。
< 繁殖ステージによる行動圏の変動 >
行動圏の推定は100%最外郭法(Minimum Convex Polygon)による 青:♂Ad. 赤:♀Ad. ※イメージ画像です | ||
![]() 抱卵期 面積:♂Ad.13.51km2 ♀Ad.0.03km2 |
![]() 巣内育雛期前期 面積:♂Ad.14.62km2 ♀Ad.4.78km2 | |
![]() 巣内育雛期後期 面積:♂Ad.16.91km2 ♀Ad.30.26km2 |
![]() 巣外育雛期 面積:♂Ad.46.69km2 ♀Ad.分散 |
・行動圏の変動
平野部において♂Ad.は2月下旬から3月中旬にかけ営巣地を中心に行動するようになり、行動圏(home range)内の巣を中心としたエリアに明確な縄張り(Territory:同種の♂Ad.に対する排他的行動を伴う範囲)も形成されていく。
巣は必ずしも1巣ではなく、複数存在するのが普通で、特に広い林に繁殖するものは3個以上の巣を持っており、同一林分の半径200m以内にみられる場合が多い。したがって、♂Ad.はこの全ての巣をパトロ-ルする。この範囲を営巣域(nest area)と呼ぶ。
♀Ad.は3月下旬から4月上旬にかけ営巣地に飛来し♂Ad.と番(ペア)が形成される。なお、複数の♀Ad.が飛来する場合には♀Ad.同士の闘争がみられる。
♂Ad.は交尾期、抱卵期、巣内育雛期の期間では行動圏に大きな変化はみられず10.2~32.5km2(n=11)であった。巣立ち後の巣外育雛期においては40.0~64.5km2(n=10)で3~4倍に広がる。これは餌動物の分布や密度・フェノロジ-(phenology)が関連しいるらしい。
♀Ad.は交尾期から抱卵期にかけては営巣域内に留まり、0.03~0.11km2の狭い範囲に留まる。
雛が孵化し第2綿羽に変わるまで(雛の日齢:12~15日)の巣内育雛前期には11.1~17.5km2(n=9)で♂Ad.の1/4程度となっている。これは巣内雛の保護や給餌量のコントロ-ル等を担っているためで、水浴びや排撃行動以外は営巣域から離れる事が出来ないためである。巣内育雛後期では22.0~43.5km2(n=9)で、飛躍的に行動圏は広がりこの時期の♂Ad.の行動圏を上回る個体もいる。これは、先に述べた♀Ad.による巣内雛の保護や給餌量のコントロ-ル等が不要となり、同時に餌の確保のため、積極的に狩りに参加するためである。
巣外育雛期では♀Ad.は巣立ち雛に餌を持ち帰る事がなくなり分散する。つまり、この時期になると♂Ad.が単独で巣立ち雛を養育する事になる。
注)行動圏の面積は全て最外郭法(Minimum Convex Polygon)によって算出
![]() ♀Ad.雛に給餌(ハシボソガラス) 雛:15~19日齢 |
![]() ♀Ad.雛に給餌(エゾリス) 雛:30~34日齢 |
・分散期・越冬期における行動様式
北海道で繁殖するオオタカは留鳥(同一個体が1年中生息していることであるが、国レベルでの区分となる場合もある)とされる事が多いが、♂Ad.と♀Ad.、さらに若鳥immatureでは渡り区分が異なっている。先に記述たように電波発信器を装着した個体の内、♂Ad.の70~75%が繁殖地とその周辺に留まるのに対し、非繁殖期において♀Ad.および若鳥の94%以上が繁殖地から150km以上離れる。特に若鳥はさらに遠距離を渡る。つまり、♂Ad.は留鳥または漂鳥(季節的に短距離の移動を行う)であり、♀Ad.は漂鳥または夏鳥となる。また、幼鳥は特に渡りの区分には馴染まず、遠距離分散型(北海道の比較的温暖な地域や本州以南に渡り越冬する)といえよう。
非繁殖期におけるオオタカは♂Ad.、♀Ad.、幼鳥を問わず、森林に依存する割合は低下し、農耕地や河川敷、高茎草地などの開放的な環境にも姿を現し、狩りが行われる。越冬期の♂Ad.の行動圏は、7,700~17,000ha(n=11)で、繁殖期の6~15倍に達する。これは餌の分布と密度が関連していると思われるが、繁殖期と異なる点は行動圏が複数の個体と重複している点で、その重複度は多いもので69%に達している。つまり、同一地域に3~4個体の♂Ad.が狩り場としている場合がある。
♀Ad.または幼鳥については追跡個体が非常に少なく不明な部分が多いが、♂Ad.のように一定の期間に行動圏をもつことはなく、探餌を主とし移動していると推定される。
< 北海道におけるオオタカの地域別繁殖動向 >
・北海道におけるオオタカの地域別繁殖記録
十勝地方平野部の調査地(約900km2)において、1971~2010年までの繁殖番数(No.of nests)と巣内雛数(No.of nestlings)及び巣立雛数(No.of fledglings)を記録した。
調査地は十勝地方北部の平野部と一部丘陵台地を含む集約農業地帯で、畑作地と牧場からなり、防風林が発達している地域である。
この調査地において1970年代から1980年代の前期までは5~6番のオオタカが繁殖し、巣立雛数は9~16羽であった。1980年代の中期から繁殖番数が徐々に増加し、1990年代の中期には11~15番が繁殖し1970年代の約2倍に達している。また、巣立雛数においても繁殖番数に比例し27~33羽で約2倍となっている。その後、2000年代になるとやや減少傾向となり、繁殖番数は7~10番で、巣立雛数は18~27羽となった。この繁殖記録における変動の要因は、営巣環境や餌資源量が影響していると考えられるが、その変化要因を具体的に示すデータが不足している。ただし、気象変動については農業気象年間に詳細な記録があり1971年、1980年、1981年、1983年、1993年、2003年の各年は低温被害が記録されている。特に1993年は戦後最大の冷害とされている。しかし、オオタカの繁殖記録をみると低温(冷害)であった年が必ずしも繁殖率が低下したとはいえず、気象変動との関連性は低いか小規模の変動ではオオタカの繁殖に直接的な影響がないことが分かる。これは農作物と野生生物の気象変動に対する耐性の違いによるものと推定される。
次に十勝農業の歴史的経緯(人為的な環境への負荷)からみると、1950年代の後半から1960年代にかけて各農家の経営規模が拡大し畑作における大型機械化営農にダイナミックに転換されていった。トラクタ-やコンバイン等の大型機械の導入は農作業の効率化を図るためであるが、一方では農作物を強風の被害から守るために発達してきた防風林の減少にも繋がった。つまり、本地域におけるオオタカの繁殖調査を始める前の段階で、既に営巣環境の一部は崩壊されたか、または大きく攪乱されていたことが窺える。また、急激な環境変化は餌資源としての鳥類や哺乳類の生息数にも影響があったと予想される。したがって調査を開始した1970年代には低水準の生息数となっていた可能性が高い。その後、その社会的な変化速度はしだいに緩やかなものとなり、比較的安定した状態に向かっていったと考えられる。また、1990年代の前期から中期には最も生息数が増加し繁殖率も高まった。つまり、防風林等の樹木を中心とした植物遷移が比較的安定化し、架巣条件が整っていったことと、餌資源が安定したことが要因であったと考えられる。しかし、1990年代の後半になると一部地域では都市開発や高速道路・各種農道の建設により営巣地が破壊され、オオタカの繁殖数は減少傾向に転じた。十勝農業の営農転換によるダメ-ジが20年以上かけて緩やかに生息数を復活させていったこととは異なり、近年では復元性が極めて低い地域を作り出しているといえよう。
上川地方丘陵地での調査地(約800km2)において1979~2010年までの繁殖番数と巣内雛数、及び巣立雛数を記録した。
調査地の環境は上川盆地の約50%で、低平部が水田または畑作地で、丘陵地は畑作地と樹林地からなっている。低平部の水田地帯では、地形的に風害が発生しにくいため防風林は未発達である。したがって低平部で繁殖するものは比較的規模の大きい社寺林か公園林に限られている。また、丘陵部の樹林地はトドマツやカラマツの人工林となっており、伐期齢に近い林分で繁殖している。この調査地において1970年代後半から1980年代にかけ4~8番のオオタカが繁殖し、巣立雛数は15~21羽であった。1990年代には繁殖番数が徐々に増加し10~14番が繁殖し1980年代までの2.4倍に達している。また、巣立雛数においても繁殖番数に比例し22~30羽で約2倍となっている。その後、2000年代になると減少傾向となり、繁殖番数は6~9番で、巣立雛数は12~24羽となった。この繁殖記録における変動は数年のズレがあるが十勝地方の生息数の増減と似ている。
1990年代の個体数の増加要因は1950~1960年代に行われた拡大造林によって植栽されたものが30~40年経過し、壮齢な林分を形成していったことと関連している。しかし、1990年代後半からは高速道路建設や林道整備による伐採が相次ぎ、オオタカの繁殖地を直撃していった(建設コンサルによるアセスメント調査では無視され営巣林は崩壊)。さらに、カラマツ材の加工技術が向上し、需要が急激に増大したことから伐採速度が加速され、繁殖に適したカラマツ林が消失し始めている。十勝地方における解説でも述べたように、急激な環境改変がオオタカをはじめ多くの野生生物の生存に打撃を与えてしまうことは明白である。
日高地方低山帯の調査地(約500km2) において1975~2010年までの繁殖番数と巣内雛数、及び巣立雛数を記録した。
調査地は日高地方中央部の丘陵地から低山地までの地域で、全体の70%が樹林地である。トドマツ、カラマツ等の人工林の占める割合は高いが、シナノキやカツラといった自然林も25%程を占めている。オオタカの巣は人工林と自然林のどちらにもみられ。上記した2調査地とは異なり、林業地帯であるため、伐採等の局所的な環境変化はあるももの、概ね安定した地域といえる。また、カラマツ林の占める割合も比較的少ないため、近年の需要を反映した伐採は行われていない。
この調査地において1970年代中期から2000年代まで、5~9番のオオタカが繁殖し、巣立雛数も9~15羽で変動率は低い。山林で繁殖するものの特徴を反映し、クラッチサイズが2.11卵で少なく、巣立ち数も少ない。しかし、変動率が低いのは安定的であるともいえる。また、ここ35年間においては気象変動の直接的影響もないといえる。
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